第7章

堅いとか言うより、他人に借りを作ることをよしとはしないって感じだけど

な。自分一人で生きてるような奴だから」

「阿良々木先輩、今日のことについて、戦場ヶ原先輩は何か言っていたのか?」

うやむや

うなず

しのぶ

しつよう

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「んー? いや、別に。気をつけてねの一言もなかった」

本當になかった。

名目上、戦場ヶ原の後輩を連れ出す形になるから、一応、神原を誘う前に戦場ヶ原に話は通

しておいたのだが、あの女、実にそっけないものだった。そんな些細なことで私の気を煩わせ

ないでと言った感じだった。お前がそんなんだから、僕はお前とデートするよりも先にお前の

後輩とデートする羽目になってんじゃねえのかよと、思わず自分の意志の弱さを棚に上げた恨

み言を言いたくなってしまう。

「神原、お前には何か言ってたか?」

「んー。目一杯可愛がってもらってきなさいと言われた」

「………………」

本當に神原に甘いんだな、あいつ。

ツンデレとか言って、なんで彼氏にデレないで後輩にデレてんだよ。

「こうも言われた。『阿良々木くんから粗相を受けたら、隠し立てすることなく私に逐一報告

なさい。あの男に、山に埋められるか海に沈められるか、嫌いな方を選ばせてあげる』」

「嫌いな方を選ばせるんだ!」

容赦ねえ。

まあ――しかし。

それは、そうは言っても、戦場ヶ原ひたぎにとっては、決して悪い傾向ではないはずだ。高

校入學前に怪異とかかわり、全てを捨て、全てを諦めたかに見えた戦場ヶ原にとって――それ

は原狀回復なのだから。自分一人で生きているような奴が――他人と觸れ合うことを覚えるの

が、悪いことであるはずがない。

僕としても望むところだ。

人間の彼女は――それでいい。

「ああ、そうだ、神原。戦場ヶ原の話で思い出したけど、あいつ、もうすぐ誕生日だろ」

「うん。七月七日だ」

「……やっぱ當然のように押さえてるんだな」

「愛する人のことだからな」

「で、それにあたって、お願いがあるんだけど」

「何でも言ってくれ。もとよりこの身體は阿良々木先輩のものだ。いちいち斷りなど入れず、

思うがままに使ってくれればそれでよい」

「いや、そんな大袈裟なもんじゃなくってさ、まあほら、アニバーサリーってことで、あいつ

の誕生日を祝ってやろうと思うんだが。でも、僕は長らくそういうイベントからは離れていた

ささい わずら

ちくいち

ようしゃ

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おおげさ


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からな、どうにも勝手がわからない。そこで神原、お前に協力してもらおうと思って」

「なるほど。脫げばいいのか?」

「そういうイベントじゃねえことくらいは僕にも分かるよ! 僕の彼女の大事な誕生日をどん

な日にするつもりなんだお前は!」

「む。勇み足だったか」

「どんなに時機を見てもその足を踏み出す機會はねえよ、一生引っ込めてろ。だからまあ、

色々、セッティングとか、プランニングとか、そういうのを手伝ってくれれば嬉しいと思って

さ。ブランクがあるとは言え、戦場ヶ原のことについてはお前の方が詳しいだろ、それだけ

だ」

「ふうむ。しかしどうだろう、阿良々木先輩、付き合って最初の誕生日なのだから、そこはそ

れ、ムードを作って二人きりで過ごすべきなのではないのか? 私の手助けなど、この場合は

余計なだけだと思うが」

「余計なだけ?」

「うん。小さな親切大きなお世話というか、ただの迷惑だな」

「あー。僕としてもそれは考えたんだけどさ、まあでも、最初の一回は、賑やかな方がいいと

思ってさ。忍野やら忍やら、あと知り合いの小學生やらも、呼べるものなら呼んでやって、軽

く誕生日パーティーでも開いてやりたいなって――」

このアイディアの問題點は、戦場ヶ原が忍野や忍や八九寺のことを嫌いだというところなの

だが、そこは力業で何とかするしかない。嫌いでも嫌だといえない狀況を作り出すことに腐心

する必要があるだろう。

「まあ――阿良々木先輩がいいなら、それでいいが」

「なんだよ、歯切れ悪いな」

「いや、言わせてもらえるなら、阿良々木先輩のそのご意志気遣いは立派だと思うのだが、戦

場ヶ原先輩としては、阿良々木先輩と二人で過ごしたいんじゃないかと思うのでな」

「そんな殊勝な女か? あいつが」

未だデートもしてくれないんだぞ。

結構露骨に誘ってるのに。

神原のことだったり、その後の実力テストだったりで、それどころじゃなかったっていうの

もあるんだけれど。

身持ち堅いんだよなあ、あいつ。

「ていうか、お前、結構普通に、僕と戦場ヶ原のこととか、考えてくれるんだな。戦場ヶ原の

ことに関しちゃ、僕とお前って、戀敵なのに」

しゅしょう

ろこつ

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「いや、それは確かにそうなのだが……しかし、今現在の私は、阿良々木先輩と付き合ってい


る戦場ヶ原先輩が好きだという感じだからな……、そして戦場ヶ原先輩の戀人である阿良々木

先輩のことも同じくらい好きなのだ」

「…………」

今、何気に告られなかったか?

やばい、ちょっとどきどきしてきた。

腕を通して心臓の鼓動が伝わりそう。

なんて簡単なんだ、僕は。

「……お前、戦場ヶ原の影響、ちょっと強過ぎだぞ。太陽に誓ったのか街燈に誓ったのか知ら

ないけれど、戦場ヶ原の彼氏だからってだけで、僕のことをそんな好意的に見る必要なんかな

いんだ。戦場ヶ原が好きな奴のことを、お前も同じように好きになる必要なんか――」

「違う。そういうことではない」

やけにはっきり言う神原。

その剣幕に少し気圧される。

相手が先輩であろうと目上であろうと言うべきことははっきり言う。

「じゃあ、お前、ひょっとして、やっぱ先月のこと、引き摺ってんのか? 僕はあんなの全然

気にしないって……ほら、よく言うじゃんか、罪を憎んで尻を隠さず――」

「そういうことでも――ない」

神原は言った。

僕の言い間違いをさらっと無視して。

「阿良々木先輩のそういった水で割ったような性格には、私は隨分救われているが、しかし、

そういうことでも、ないのだ」

「水で割ったような性

格って……」

薄そうな奴だなあ。

しかし、間違ってない気もする。

簡単だし。

「いいか、阿良々木先輩。よく聞くのだ。私は阿良々木先輩をストーキングしていたのだぞ」

「…………」

堂々と言うな。

諭すみたいにそんなこと言うな。

「だから――阿良々木先輩がどういう人間なのか、私はよく知っているつもりだ。そうするに

値する人だと、私は本當に思っているのだ。戦場ヶ原先輩の彼氏でなくとも、先月のことがな

けお



さと

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くっても、どんな形で出會っていても――私は阿良々木先輩を、尊敬に値する人物だと看做し

ていたはずだぞ。それは私の腳にかけて、保証する」

「……そっか」

まあ、だから。

神原と僕が、こんな形以外で出會う可能性を探ること自體、馬鹿馬鹿しい、ありえない仮定

なんだけれど……。

それでも。

「腳にかけられちゃ