第9章

んな人

間の足跡なのだろう? 確か忍野は、その神社には近付いてもいないと言っていたから、この

足跡は忍野のものじゃないはずだ。神社は既に廃れてしまっていると言っていたから、そこの

なが

じっせん



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関係者ということでもないだろう……。

変な奴らのたまり場になっている。

ことはないはずだけど。

「…………」

僕の左腕に付著している神原を見る。

こいつはこの通り、やけにガードの甘い、その癖可愛らしい女の子だからな……大丈夫だろ

うか。変な奴らと言うのが、文字通り変な奴らだった場合……僕一人にできることには限界が

ある。鬼の血が體內に殘っているとは言っても、その血は僕の場合、基本的には新陳代謝や回

復力の方面にしか働かないのだ。

「ばるかん後輩」

「なんだ、らぎ子ちゃん」

「その左腕――どんな調子だ?」

「うん? どういう意味だ?」

「いや、何か変わったことはないかと思って」

「特にない」

特にない――か。

まあ、何気に重そうなその風呂敷包み、ちっとも持ち替えることなく、左手で持ち続けてい

るし……。

じゃあ、心配いらないのかな……元々の基礎體力に加えて、猿の左腕のパワーがプラスされ

ている、それが今の神原のデフォルトの狀態であるのだとすれば……。

「ああ。左腕一本で阿良々木先輩をベッドに押し倒せるくらい、力は有り余っているぞ」

「押し倒す場所がベッドである必要をいまいち感じないんだが」

「じゃあ、阿良々木先輩を左手一本でお姫様だっこできるくらい、だ」

「片手でやったらお姫様だっこじゃなくて、むしろ町娘を攫う山賊っぽいぞ……いや、それな

らまあいいや」

「ふふふ」

すると、なんだかいやらしい感じに神原は笑う。

なんだか嬉しそうだ。

「阿良々木先輩は本當に優しいなあ……こんな私のことを本當に心配してくれている。ああも

う、阿良々木先輩には心身の全てを委ねても安心していられるなあ……」

「頬を赤らめて感慨深そうに言うな。お前はサトリの妖怪かよ。焚き火を起こすぞこの野郎。

人の心をぽんぽんぽんぽん、気軽に読みやがって」

しんちんたいしゃ

さら さんぞく

ゆだ

た び

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「これでもバスケットボール部の元エースだ。目を見れば、相手の考えていることくらい、大

體わかるのだ。まして尊敬している阿良々木先輩のお考えだぞ? 忠実なる徒たる私にしてみ

れば、手玉に取るようにわかる」

「手玉に取ってどうする、実は悪女なのかよお前は。ふうん……目を見ればねえ。本當かよ。

それこそテレパシーみたいだな……。じゃあ神原、今、僕の考えてることを當ててみろ」

「こんなところだろう。『この女、頼んだらブラジャー外してくれねえかなあ』」

「お前は僕のことをどんな目で見てんだよ!」

「外そうか?」

「う、く……いらねえよ!」

不覚にも數瞬迷ってしまった。

神原は「そうか」と軽く頷いて、変わらず腕に抱きついているだけだった。……僕の數瞬の

迷いを突っ込んでこずにあっさりスルーするあたりが、男の下心に寛容な包容力溢れる母性を

アピールしているようで、素直にムカつく……。

そもそもお前が振ってきた話じゃねえか。

なんで姉さん女房気取りだよ。

「行くぞ……ああもう、山に登る前から疲れてきた」

「うむ」

「一応、足の方、気をつけとけよ。蟲刺されの方はともかくとして、この山、やたら蛇が出る

らしいから」

「蛇か」

くすっと、神原が笑った。

さっきのへびつかい座の話を思い出したのかもしれない。

構わず、僕は話を続ける。

「まあ、無毒の奴ばっかりらしいけどな。けど、蛇の牙は長いからな、こんなところで咬み傷

もらってもつまらんだろ」

「……阿良々木先輩は首筋だったな」

「ああ。蛇じゃなくて鬼だけど」

山中の階段を昇りながら、そんな話をする。さっきまでと座標がそこまで極端に変わったわ

けでもないのに、山に入るや否や、濕度が一気に上昇したらしく、酷く蒸し暑い。忍野の話だ

と、この階段が直接、その神社に繋がっているはずなのだが、神社のその高度までは聞いてい

ない。さすがに頂上ってことはないと思うが……まあ、それでもいいだろう。どうせ、そんな

高い山でもない。

かんよう あふ



いな

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「私の左腕は」

神原は言った。

「忍野さんの話では、二十歳までに、治るそうだ」

「へえ? そうなのか?」

「うん。まあ、このまま何もしなければ――だが」

「そりゃよかったな。二十歳過ぎりゃ、またバスットボールができるってことじゃないか」

「そうだな。勿論、身體がなまっては望みも潰える、そのための自主トレはかかせないが」

と、神原。

そして続ける。


「阿良々木先輩は――どうなのだ?」

「え? 僕?」

「阿良々木先輩は――一生、吸血鬼なのか?」

「……僕は」

一生。

一生――吸血鬼。

人間もどき。

人間以外。

「それでもいいと、思ってるよ。大體――神原の左腕とは違って、今でもそれほど、不自由は

ないしな。太陽も十字架も大蒜も、全然、平気だし。はは――怪我してもすぐ治っちゃうか

ら、むしろ得なくらいなんじゃないのか?」

「私は強がりが聞きたいのではない。阿良々木先輩。忍野さんから聞いた話では――忍という

あの少女を助けるために、阿良々木先輩は吸血鬼に甘んじているとのことだったが」

忍。

それが、僕を襲った吸血鬼の、今の名前。

金髪の吸血鬼。

彼女は今――忍野と共に、學習塾跡の廃墟にいる。

「…………」

あの野郎、それにしても、口が軽いな。

まさか戦場ヶ原には話してないだろうな……恐らく、相手が『左腕』の神原だからこそ、參

考にすべき先例として、あえてその話をしたって感じなのだろうから、大丈夫だろうけれど…

…。

「そんなことはないよ。これは、ただの後遺症だ。忍のことは――まあ、責任だ。助けるなん

? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?

つい

にんに



? ? ?

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て、そんなだいそれたもんじゃない。これでも、折り合いをつけて、ちゃんとやってるさ。大

丈夫だ。……僕はバスケットボール部の元エースとかじゃねえから目を見てもわからないけ

ど、神原、僕のことを心配してくれてんだろ?」

「……まあ」

「大丈夫だ。心配には及ばないよ――勿論、行為にも及ばない」

最後は茶化すようにそう言って、僕はこの話を打ち切った。神原はまだ何か言いたそうだっ

たが、それは言うべきことではないと思ったのだろう、そのまま、黙った。言うべきことは

はっきり言うが――言いたいだけのことは、律する。全く、僕の左腕に巻きつかせておくには

惜しい女だ。

「あ」

「お」

と、會話が途切れた、その丁度いいタイミングで、階段の上から、人が降りてきた。小走り

で危なっかしく、この頼りない階段を駆け下りてくる。

中學生くらいの女の子だった。

長袖長ズボンの完全防備。

腰にウエストポーチをつけていて。

頭には帽子を深くかぶっている。

それゆえ、前が見えてい