第10章

るのかいないのか非常に不確かで、しかも、見えていたとしても足

元だけを見て駆け下りてきている感じだったので、下手をすれば僕達と正面衝突していただろ

う。たまたま會話が途切れたタイミングだったのが本當によかった、僕と神原は、彼女に、通

常よりも早いタイミングに気付き、それぞれ、階段の脇に寄って避けることができた。

すれ違う瞬間。

彼女は僕らを見て――そこで初めて僕らに気付いたようで、ぎょっとした顏をして、したか

と思うと、それから更にペースを上げて、階段を降りていった。あっと言う間に、その背中が

見えなくなってしまう。道路に出るまでに絶対に二回は転ぶと思わせるほどの、それはペース

アップだった。

「………………?」

んん?

なんか、今の子……。

見たことがあるような、ないような。

「どうした? 阿良々木先輩」

「ん、いや……」

ちゃか



? ? ?

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「それにしても、こんな山道で人間とすれ違うとは、意外だったな。阿良々木先輩の手前口に

は出せなかったが、私はてっきりこの階段、死道だと思っていたぞ。それに、隨分と可愛い女

の子だった。もう使われていない神社と言っていたが、案外、使っている人はまだ使っている

のではないのか?」

「しかし、あんな女の子がか?」

「信仰に年齢は関係あるまい」

「そりゃそうだけどさ」

「戀愛に年齢が関係ないように」

「それは付け加える必要のない台詞だな」

言いながら、どこで見たことがあるのか、思い出そうとしたが、しかし、とうとう、思い出

すことはできなかった。いや、そもそも、あんな女の子のことは知らないのかもしれない、た

だのデジャヴなのかもしれないと、僕はここでは結論づけて、

「ま、登ろうぜ」

と神原に言った。

「上から人が來たってことは、とりあえず上に何かがあるってのは確かってことだ。ひょっと

したら忍野が僕に嫌がらせをしているんじゃないかという可能性をずっと考えていたが、とり

あえずその線は消えたってことだ」

「うむ。阿良々木先輩が私を騙しているという線もこれで薄くなった」

「その線は本當にあった上、消えないんだな……」

「笑顏で許すぞ」

「黙れ欲求不満」

「過ちで構わない。うるさい女になるつもりはない」


「既に相當うるせえよ」

「そうか。それならばどうだ、阿良々木先輩。いっそのこと阿良々木先輩が私の欲求不満を解

消してくれたら、結構靜かになると思うぞ。さかりのついた動物を鎮める、一番手っ取り早い

手段は、それだろう」

「自分で自分のことをさかりのついた動物扱いする奴を、僕は初めて見たよ……」

「恥ずかしいのは最初だけだ、阿良々木先輩。むしろこういうことはさっさと済ませてしまっ

た方が後腐れがなくていい」

「先に行くぞ」

「なるほど、放置プレイか」

「先に帰れ!」

だま

あやま

しず

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「阿良々木先輩はどうも私の誘いに冷たいな。女の子が積極的なのは好みではないのか? と

なると、どうやら阿良々木先輩には、多少嫌がっているような振る舞いを見せた方がよいよう

だな」

「勝手にしろ」

「想像するがいい。今私は、嫌々阿良々木先輩と手を繋いでいる……弱味を握られ、暴力で脅

され、命令されて無理矢理手を握らされている……そこで私がおどおどした口調で一言、

『こ、これでいいんですか……』」

「う……そう考えるとそそるものが――あるか!」

ない。

皆無である。

「ふうむ。阿良々木先輩は身持ちが堅い。冷たいというよりはつれない感じだ。こうもぞんざ

いに扱われると、自分の女としての魅力に自信がなくなってくる。阿良々木先輩は私のことな

んてどうでもいいのだろうか」

「いや、お前のことをどうでもいいなんて思ってないよ。ただ、僕には戦場ヶ原という彼女が

いるんだから、つれない態度を取らない方が問題だろう」

「しかし見たところ阿良々木先輩と戦場ヶ原先輩はプラトニックな関係のようだ。ならばもて

あました性欲をぶつける場所が必要だと思うのだ」

「必要ねえよ! そんな場所に志願するな!」

「精神面は戦場ヶ原先輩がケアし、肉體面は私がサポートする。見よ、これこそ見事な黃金の

トライアングルだ」

「違う、お前こそよく見ろ、それこそ見事なドロドロの三角関係だ! 僕は絶対に嫌だよ、そ

んな気まずいオレンジロード!」

「と言いつつ、阿良々木先輩は私の胸から目が離せないようだった。なんだかんだ言っても男

の本能には逆らえないようである」

「なんでお前がモノローグを語る!?」

「今回は番外編だから私が語り部なのだ」

「何言ってんだお前!?」


ていうか。

何のどんな番外編でも、お前が語り部になることはないと思う。

十八禁に指定されちゃうもん。

「むう。なかなかうまくいかないものだ、私の肉體をもってすれば阿良々木先輩くらい軽く虜

にできると思っていたのに」

おど

かいむ

とりこ

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「そんなことを思っていたのか!?」

プラトニックな関係ねえ……。

デートもしてくれない冷淡な彼女が、ものは言いようだな。でも、そういうのってやっぱり

見てわかるものなんだ。漫畫とか読んでて、成立したはずのカップルが、いつまでも引っ付い

たり離れたりを繰り返しているのを見て、もういいからさっさと行き著くとこまで行っちゃえ

よと茶々を入れていたものだけど、うん、あれはリアリティだったんだと、彼女ができて初め

てわかった。

無理無理。

行き著くとこまでなんかそうそう行けないって。

「身持ちが堅いって言うなら、あいつこそ、なんだかんだで身持ち堅いんだよなあ」

「そういうのもいいではないか、阿良々木先輩。戦場ヶ原先輩の過去を思えばそれもまたわか

る話ではあるし、照れ照れの初々しい彼女なのだと思えば、それもまた萌えポイントだ」

「照れ照れねえ……萌えポイントだと意識してしまった段階で、それは萌えではなく売りに

なってしまうと、僕は思うんだよ」

「売っているなら買って悪い道理はあるまい」

「そりゃそうだ」

階段を昇る。

入り口のところで気付いた、草を踏み潰した足跡は、あの子のものだったのだろうか、など

と考えながら、神社についたのは、五分後だった……それもまた、階段同様、事前に神社だと

聞いていなければ神社だとは思えないような、荒れ果てた様相を呈していた。変な奴らが溜

まってたらどうしようという心配は全くもって無意味だった。田舎だろうがどこだろうが、こ

んな場所には一秒だっていたくないというのが、正常であろうと変であろうと共通した、人間

の考え方だろう。かろうじて、鳥居があるから神社跡だとわかるだけで、建物の方は、どれが

神殿なのだか判然としない。位置関係から判斷するしかなさそうだ。

さっきの女の子も、ここにきたのだろうか。

しかし、何のために?

明らかにこの神社に、神様はいない。

神様だって逃げ出すはずだ。

忍野風に言うなら、神様はどこにでもいる――んだろうけれど、それでも、ここにだけはい

ないような気がした。まあいいか……とりあえず、仕事を済