第24章

えない……というか、今の段階では名前もないような、そんなもの達

だ。怪異と言えるような段階でもないな」

変な奴らの溜まり場。

に――なっては、いたわけだ。

ただし、それらは――人間ではなかった。

文字通りの、変な奴ら――だ。

「神原の気分が悪くなったのは――その影響なのか?」

「そうだよ。あの百合っ子ちゃんの左腕は、今も猿のままだからね――よくないものの影響

を、強く受けやすいのさ。阿良々木くんもまたそうなんだけど、でも、お嬢ちゃんの猿と、阿

良々木くんの忍ちゃんじゃ、怪異としてのランキングに圧倒的な格差があるからね。お嬢ちゃ

んがそういう事象に対する抵抗力を失っている狀態なのに対し、阿良々木くんは、よくないも

のに対するそれなりの耐性があったってことだな」

「……忍野、お前にはわかってたのか? 神原が――ああなるってこと」

「そう怖い目で見るなよ。阿良々木くんはいつも元気いいなあ、何かいいことでもあったのか

い? 百合っ子ちゃんに具體的な何かがあったわけじゃないだろうに。それに――貸し借り

だ。少しは苦しい思いをしないと、割に合わない。特に、あの百合っ子ちゃんの場合はね。そ

うだろう?」

「…………」

そう――なのかもしれない。

そこまでシビアに考えることは、僕にはできないというだけで……、あれは、神原にとって

は、あるいはしかるべき痛苦なのかもしれない。少なくとも、神原本人は、それを知ったとこ

ろで、忍野に文句を言ったりはしないだろう。そういう奴だ。

「まあ、これで後は、あの百合っ子ちゃん次第だね。あの左腕がどうなるのかは、彼女自身の

問題だ。二十歳まで、何事もなく過ごせれば――彼女は怪異から解放される」

「そうなれば――いいな」

「ふん。阿良々木くんはいい人だね。相変わらず――」

「なんだよそれ。なんだか、含むところのありそうな物言いだな」

「別に。羨ましくは――妬ましくはないのかと思ってさ。同じ人間以外から、さっさと人間に

戻っちゃう、百合っ子ちゃんのことが、さ」

「……別に。僕は、もう、自分の身體のことに関しちゃ、納得いってんだからよ。整理整頓、

終わってんだから――そんな、引っ掻き回すようなことを言うなよ、忍野。神原にも余計なこ

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ねた



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とを言うのはやめてくれ。あいつの負い目になりたくない」

「そうだね、悪かった。お劄は本殿の戸に貼ったんだっけ? 仕事としちゃあちょっと橫著だ

けど、まあいいや。それでよくないものは、ある程度、分散されるだろう」

「ある程度って……」

「素人が貼ったお劄程度で狀況はそう劇的に変わったりはしないよ。大體、劇的に変わっちゃ

まずいしね。あくまで自然の流れを、ちょっとゆがめる程度にしておかないと――別の場所で

何が起こるかわからない。その意味じゃ、戸に貼るっていう橫著な選択肢は、悪くない選択

だったと思う」

「……なんで、お前にはできないことだったんだ? 怪異だろうがそれ以前のよくないものだ

ろうが――それはお前の専門だろうに。それとも、神原の貸し借りをなくすために、仕事を無

理矢理撚出したって形なのか?」

「それがないとは言わないけど、でも、僕には難しいことだったのは本當だよ。ほら、僕って

見ての通り、細っちょろい肉體してるからさ。山登りをする體力なんてないのさ」

「旅から旅への放浪者の台詞じゃねえな」

「はっはー。見え透いてるかい? まあ、そうだね、今のは冗談だ。體力的な問題じゃない―

―もっとメンタルな話でね、阿良々木くんと百合っ子ちゃんが怪異であるがゆえに――だった

ように、僕は専門家であるがゆえに――よくないものを、変に刺激しちゃうのさ。向こうから

襲い掛かってきたら、僕としては対応せざるを得ないし、そうすると、あんな吹き溜まりに絶

好の真空地帯が生じちゃう。次に何が流れ込んでくるかわからないぜ――最悪の場合、忍ちゃ

んの再來だ」

「よくわからないけど……自然界のバランスを人間の都合で左右しちゃいけないって感じか?

そのために、強過ぎる忍野よりも、僕や神原くらいが行った方が、連中にとって防衛意識が働

きにくかった、とか……」

「ま、その理解でいいよ」

軽く言う忍野だった。

本當はもう少し複雑な事情なのだろうが――あるいは全然違う事情なのだろうが――この話

をこれ以上突っ込んで聞いても、仕方がなさそうだ。

神原が、忍野に対し、これで貸し借りなくなった。

それだけはっきりしていればいい。

「百合っ子ちゃんだけじゃないよ」

忍野は飄々とした風に言った。

「阿良々木くんの貸し借りも、これで帳消しだ」

おうちゃく

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しろうと

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ねんしゅつ

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「……え?」

僕は、忍野からの思わぬその言葉に、驚きを隠すことができなかった。

「僕の借りって……確か、五百萬円」

「金額にすればね。今回の働きは、それくらいのことはあったよ。何せ、妖怪大戦爭を未然に

防いだようなもんなんだから」

「そ、そんな大ごとだったのか……」

教えておいて欲しかったな、それは。

しかし、考えてみれば、あれほどの大事だった神原の貸し借りが、一気にチャラになるほど

の働きだったのだ――僕の分も、相応に、そして相當に差し引かれるだろうというのは、予想

できてもよさそうなものだった。自分を勘定に入れないというのは、言葉の上ではなるほど美

しいのかもしれないが、実際にはこんな風に、ただの間抜けって感じなんだな……。

「帳消しというか、僕としては阿良々木くんにはちょっとお釣りをあげたいくらいだよ。まあ

いいや。その子――その妹的存在のお嬢ちゃんについての話をしようか。聞いている限り、結

構切羽詰まっているみたいだし」

「そうなのか?」

「無事なのは、両腕と、首から上だけなんだろ? そりゃまずいよ。蛇切縄が顏まで來たら、

それはもうそれまでだ。阿良々木くん。蛇切縄は、人を殺す怪異なんだ。それをよく、わかっ

ておいてくれ。今回のケースは――割かし、マジだぜ」

「………………」

そうだろうとは――思っていた。あの鱗の痕から、そんな禍々

しい気配は、感じていた。

が、専門家の忍野の口から改めてそれを聞くと、重みがまるで違う。

死ぬ怪異じゃない。

殺す怪異――だ。

「蛇毒は人を殺す――というけどね。神経毒、出血毒、溶血毒、なんでもござれだ。ちゃんと

血清を持って対処しないと、こっちだって巻き込まれちゃう。蛇は――難しいんだよ」

まあ、食材としては、存外、毒のある方がうまいというけどね――と、忍野。

「忍野……蛇切縄って、どんな怪異なんだ?」

「その前に、阿良々木くんが本屋さんで見たっていう、そのお嬢ちゃんが立ち読みしていた本

のタイトルを教えてよ。あとでって言って、阿良々木くん、結局百合っ子ちゃんにまだ教えて

あげてないでしょ? 何